オーダーメイドの印鑑と革ベルトのネームホルダー

これは筆者が8年前に新卒でとある会社に就職した際に、新人研修で出会った憧れの先輩がくれた贈り物にまつわる実体験です。当時社会人になったばかりで右も左もわからず不安だった私は、先輩の心温まる気遣いのおかげで安心して職場に飛び込むことができ、忙しくも充実した日々を過ごすことができました。

退職した今でも大切に保管している先輩からの二つの贈り物について紹介させてください。

憧れの先輩との出会い

今から8年前の4月、私は新卒で寝具メーカーに入社しました。入社後の一カ月間で様々な新人研修を受け、社会人としての基本マナーや会社の組織、物流工場の仕組みなどを一通り学びました。その中でも特に印象に残っているのが、商品知識の研修です。

もちろん自社の商品について学べることが面白かったというのもありますが、それ以上に研修の講師をしてくださった教育担当の二人の女性の先輩(8年目のKさんと4年目のIさん)がとても輝いて魅力的に見えたのです。

柔らかくわかりやすい言葉遣い、一方的でなく受講者(新入社員)を自然と巻き込んでいく雰囲気、清潔感があるけれど堅すぎない服装、そして何より自分たちが楽しみながら研修をされている様子がひしひしと伝わってきました。

大袈裟かもしれませんが、こんな先輩がいる会社に就職できてよかったと感じたのを覚えています。たった一日の研修でしたが、お二人の人柄にすっかり魅了され、いつかこの先輩のもとで働きたいと強く思いました。

部署配属の当日の出来事

そして新人研修を終えて迎えた配属発表の日。どの部署に配属されるか全く見当もつかず、緊張しながら名前が呼ばれるのを待っていると、なんとKさんとIさんが所属する教育担当部に配属が決まったのです。私は胸の高鳴りが抑えられず、高揚感と緊張で小刻みに震えながら教育担当部のフロアに向いまいした。

すると、KさんとIさんはどちらも出張に出ており席には誰もいませんでした。私はいまいち状況が飲み込めないまま用意された席にぽつんと座り、さて何をしたらよいのかと頭を抱えながら机の上を見て、一人で小さくあっと声を出して驚きました。

綺麗に掃除された私のデスクには、KさんとIさんの似顔絵入りのメッセージと業務内容に関する参考書、そしてちょっとしたお菓子がセットされていたのです。「○○さんの大切な配属当日に出張で不在にしていてごめんなさい。

明日元気に会えるのを楽しみにしています。」と温かいコメントが添えてありました。その時点で、改めてお二人の人柄に惚れ直し、恵まれた環境で仕事が出来ることに感謝しました。

新しい業務に奮闘する日々

そして三人体制になった教育担当部での怒涛の日々が始まりました。社員研修やセミナーの運営が教育担当部の主な業務で、全国の販売店や支店を少人数で担当するため、出張や外出も多く想像以上に激務でした。ましてや、商品のことも知らず販売経験も無い新人の私が教育担当部に配属になったことで、何を説明しても説得力が出ないのではないかと不安でいっぱいでした。

初めのうちは先輩の資料を参考に研修内容を考え、話し方や研修の進め方を何度も練習し、配属から2か月後には講師として人前で話すことが決まりました。優しい先輩方に指導してもらいながら少しずつ話すことには慣れていったものの、研修の独り立ちの予定日が近づくと次第に自分でも余裕がなくなっていくのがわかりました。

先輩からの贈り物

そんなある日の残業中、研修の準備をしていた私にトレーナー担当のIさんから「明日の研修頑張ってね」と小さな袋を渡されました。なんだろうと中身を見てみると、ピンクの印鑑と革のベルトのネームホルダーが入っていました。

その印鑑は1本で二つの印面を使い分けることができるツインタイプの珍しいものでした。早速押してみると、苗字のみの印面と小さい文字でフルネームが入った印面が表れました。世界に一つだけしかないオリジナルな印鑑に嬉しくなり、ついその場でたくさん押してしまったのを覚えています。

実はこれはIさんも持っているものと同じタイプで、社内資料などに押印されているのを見て、個性があって素敵だなと密かに思っていたものだったのです。先輩とお揃いということに加え、わざわざ自分の名前をオーダーして作ってくださったことに胸が熱くなりました。

またネームホルダーは研修中に講師証明書を首から掛けるため、教育担当部員には必須のアイテムでした。私は社内で配布されたごく一般的なプラスチックのものを使用しようと思っていましたが、「これから大事な場面で何回も使うことになるから」と素敵な革のネームホルダーを選んでくださったのです。

初めての研修を控え不安でいっぱいでしたが、ネームホルダーを身に着けることで、研修中も先輩が近くで見守ってくれているような安心感を期待できました。聞くところによると、Iさんも4年前に教育担当部に配属になった際、当時のトレーナーであったKさんからオーダーメイドの印鑑とネームホルダーをプレゼントされたそうです。

このように代々後輩を温かく迎え、力強いエールが込められた贈り物が引き継がれていることにも感銘を受けました。

電子印鑑とオンライン手続きのメリット・デメリット

受け継ぎたい習慣と大切な思い出

そして3年後、教育担当部に新しく後輩のTさんが配属されました。私は初めてのトレーナーの役割に少し緊張しながらも、元気な後輩の指導に力を注ぎました。そして、いつか自分に後輩ができたら渡してあげようとずっと心の中で温めてきた贈り物をようやく準備することができ、渡す側の私がわくわくしていました。

後輩をイメージした黄色の印鑑と革のベルトのネームホルダーを喜んで受け取り、その後も大切に使ってくれています。その後、一身上の都合で私はこの会社を退職してしまいましたが、何回もインクを交換しながら毎日の業務で使用していたオーダーメイドの印鑑と、研修やセミナーを行うときには必ず肌身離さず掛けていた革のベルトのネームホルダーは今でも大切に保管しています。

先輩がくれた宝物

新入社員の頃にお世話になった憧れの先輩からもらったオーダーメイドの印鑑と革のベルトのネームホルダー。今でもこれらを手にすると、慣れない仕事に奮闘していた当時の自分の姿や、優しくも力強いエールで支え続けてくれた先輩の温かい心遣いが蘇る、私の宝物です。

今でも代々後輩にこの贈り物の習慣が引き継がれているなら、これ以上嬉しいことはありません。